非上場の中小企業の事業承継時に、自社株に高額の相続税や贈与税がかかってしまい、後継者に自社株を移転できないという事例が多くあります。
事業承継税制の特例措置を活用すると、自社株相続や贈与にかかる相続税や贈与税が免除されます。
自社株の評価額が高い中小企業には大きなメリットがある制度ですが、デメリットもあるので注意しましょう。
この記事では、
- 事業承継税制とは、そもそもどんな制度なのか?
- どんなメリットとデメリットがあるのか?
- 事業承継税制を利用する条件
- どういう企業にメリットがあるのか?どういう企業にはメリットがないのか?
- 事業承継税制以外にもできる事業承継対策
などをお伝えします。
あなたの事業承継のお役に立てば幸いです!
それでは、さっそく見ていきましょう(^^)
事業承継税制とはどんな制度で、メリットとデメリットは何か?
日本の経済を支えているのは、間違いなく中小企業です。
事業承継がうまくいかないという理由で、優良な中小企業が潰れてしまうのは、経済的に大きな損失です。
優良な中小企業が生み出す利益がなくなってしまうことや、従業員が職を失ってしまうリスクがあるからです。
国でも、非上場中小企業の事業承継がうまくいかないことを危惧したため、平成21年から「事業承継税制」が作られました。
先代経営者から後継者にスムーズに事業承継ができるよう、相続税や贈与税の特例を設け、非上場の中小企業が存続できるような税制を作ったのです。
平成30年に事業承継税制は3回目の改正が行われ、非上場中小企業経営者や後継者に有利な税制改正となりました。
条件に合えば、自社株にかかる相続税や贈与税の納税が免除されるため、非常にメリットの大きい税制改正と言えるでしょう。
後継者は贈与や相続発生時の現金負担もありません。
ですが、良いことばかりではありません。
事業承継税制の恩恵を受けるには、条件を維持しなければいけません。
税制優遇を受けている間に条件を外れてしまうと、猶予されていた相続税や贈与税が全額課税になってしまうデメリットもあります。
また、税制優遇を受けるための条件を続けていけるのかというデメリットもあります。
事業承継税制は非常に有効な制度ではありますが、自分の会社において有効なのか否かは、慎重に判断する必要があります。
目の前の税制だけに飛びつくのは少々危険です。
企業によっては事業承継税制を使わない方が良い場合もあります。
平成30年からの事業承継税制の特徴
平成30年3月までの旧体制(一般措置)から、平成30年4月の新体制(特例措置)でできるようになったことをご紹介します。
事業承継税制は平成21年からありましたが、今回平成30年4月からの特例措置で、メリットが拡充されました。
納税猶予株式が100%になった
平成30年3月までの一般措置では、贈与税や相続税の納税猶予対象は、自社株の80%が上限でした。
また、自社株80%のうち、贈与税は100%納税猶予対象でしたが、相続税は80%までが上限でした。
ですが、平成30年4月からの特例措置では、贈与税や相続税の納税猶予対象は、自社株100%になりました。
また、相続税の納税猶予対象も100%になりました。
制限が撤廃されたということですね。
複数の株主から後継者が最大3人までに拡充
平成30年3月までの一般措置では「1人の先代経営者から1人の後継者に自社株を贈与・相続する場合」のみでした。
平成30年4月からの特例措置では、親族外の複数の株主から、代表者である後継者(最大3人まで)への自社株の贈与・相続まで対象になりました。
ちなみに、後継者は親族外でも事業承継税制の適用を受けることができます。
より自社株の移転の選択肢が増えました。
相続時精算課税制度の適用範囲の拡大
平成30年4月からの特例措置では、親族外の後継者でも事業承継税制の適用を受けることができるようになりました。
ただし、親族の後継者であれば税制適用条件から外れて贈与税が課税される場合でも、相続時精算課税制度を使って2500万円までは目の前の贈与税を回避することができます。
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母か祖父母から、20歳以上の子供または孫への贈与が、2500万円まで贈与税が猶予され、相続時に贈与分が合算されて相続税として課税される制度です。
ですが、親族外の後継者は相続時精算課税制度がありませんので、事業承継税制の適用条件から外れてしまうと多額の贈与税が課税されてしまいます。
それを防ぐため、60歳以上の贈与者から、20歳以上の後継者への贈与も相続時精算課税制度の対象となりました。
贈与を受ける後継者が親族外でも適用が可能です。
後継者に多額の課税がかからないように配慮されていると言えますね。
参考:国税庁「相続時精算課税の選択」
会社売却や廃業するときの株価は売却・廃業時の評価額
平成30年3月までの一般措置では、後継者が売却や自主廃業をする場合、経営状態が悪化して株評価額が下落した場合でも、自社株を承継したときの株価で贈与税や相続税が課税されてしまうため、多額の課税がかかってしまいました。
平成30年4月からの特例措置では、後継者が売却や自主廃業をする場合、株の評価額は売却や廃業時の評価額で贈与税や相続税が課税されます。
一般措置のときは将来の経営状態の悪化が大きなリスクになりましたが、現在の特例措置では将来の経営状態悪化時の高い税金の不安は解消されました。
8割の雇用を維持する必要がなくなった
平成30年3月までの一般措置では、税制の適用から5年間は平均8割以上の従業員の雇用を維持しなければいけませんでした。
ですが、平成30年4月からの特例措置では、税制の適用から5年間で平均8割の従業員の雇用を下回っても、税金の猶予を継続することが可能になりました。
ただし、経営悪化等が理由の場合は認定支援機関の指導助言を受ける必要があります。
承継後の経営悪化によって従業員が減少しても、税制優遇を受けることができます。
引用元:中小企業庁「平成30年度事業承継税制の改正の概要」
事業承継税制の特例措置を受けられる企業の条件
事業承継税制の特例措置を受けられる企業は、
- 上場企業ではないこと
- 中小企業庁の定義する「中小企業」に該当すること
- 風俗営業会社ではないこと
- 資産管理会社ではないこと
という条件を満たしている必要があります。
②中小企業庁が定義する「中小企業」とは、
- 製造業・建設業・運輸業・その他の業種:資本金の額または出資の総額が3億円以下か、常時雇用している社員が300人以下
- 卸売業:資本金の額または出資の総額が1億円以下か、常時雇用している社員が100人以下
- サービス業:資本金の額または出資の総額が5000万円以下か、常時雇用している社員が100人以下
- 小売業:資本金の額または出資の総額が5000万円以下か、常時雇用している社員が50人以下
となっています。
引用元:中小企業庁『FAQ「中小企業の定義について」』
また、資産管理会社とは有価証券・自社で使用していない不動産・現預金など資産の保有割合が、帳簿価額の総額の70%以上の会社や、これらの資産からの運用収入が総収入額の75%以上の会社のことです。
事業承継税制の適用を受ける企業として認定されるためには条件を満たさなければならないことはもちろん、一定期間は条件を満たし続ける必要があります。
特に注意なのは、中小企業庁が定める「中小企業の定義」から外れないことです。
事業承継後に会社の経営が好調で、従業員を増やす際は「中小企業の定義」の従業員数を上回らないことが大切です。
「中小企業の定義」は、資本金が〇〇〇〇万円以下や、従業員が〇〇〇人以下と定められているため、業績の悪化によって適用条件から外れてしまうケースは少ないようです。
条件から外れてしまうと猶予されていた贈与税や相続税・利子税が一気にかかってきますので、注意してください。
贈与税で事業承継税制の特例措置を受ける条件
贈与税で事業承継税制の特例措置を受ける条件をご紹介します。
下記にあげる条件を満たさないと、一気に贈与税と利子税がかかるリスクがあるため、慎重に行動してください。
贈与税で事業承継税制の適用を受ける流れ
贈与で事業承継税制の適用を受けるためには、会社の後継者や承継するときまでの経営の見通しなどを記載した「特例承継計画」をつくる必要があります。
「特例承継計画」を認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所など)の所見を記載して、平成35年3月31日までに都道府県知事に提出して、円滑化法の認定を受ける必要があります。
ちなみに、平成35年3月31日までの贈与については、贈与後に特例承継計画を提出することもできます。
贈与税の申告期限までに、事業承継税制の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書と必要書類を税務署に提出します。
ちなみに、事業承継税制の適用を受けるためには担保を提供する必要がありますが、多くの企業では自社株を担保にしています。
贈与税で事業承継税制の特例措置を受けられる後継者の条件
事業承継税制の贈与税の特例措置を受けられる後継者の条件をご紹介します。
- 会社の代表権を有していること
- 20歳以上であること
- 役員に就任してから3年以上経過していること
- 後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することになること
となっています。
平成30年の特例措置では、最大で3人の後継者までが特例措置を受けられます。
後継者は、先代経営者の法定相続人以外でも特例措置を受けられます。
「後継者と特別の関係がある者」とは、
- 代表者の親族
- 代表者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁の妻ですね)
- 代表者の使用人
- 代表者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者(代表者の使用人を除く)
- ②~④の生計一親族
- 代表者(認定承継会社や①から⑤の人を含む)が議決権の50%超の保有する会社
- 代表者および⑥の会社が議決権の50%超の保有する会社
- 代表者および⑥または⑦の会社が議決権の50%超の保有する会社
となっています。
引用元:租税特別措置法施行令
後継者が1人の場合と複数の場合でも条件が異なります。
後継者が1人の場合は、後継者と後継者と特別の関係がある人の中で、後継者がもっとも多くの議決権数を保有することが条件です。
後継者が複数の場合は、後継者が総議決権数の10%以上の議決権数を保有して、かつ、後継者と特別の関係がある人の中でもっとも多くの議決権数を保有することが条件です。
贈与税の事業承継税制の適用を受ける場合、あわてて後継者を役員にするのでは間に合いません。
後継者が役員に就任して3年以上経過している必要があるからです。
また、事業承継税制の適用を受けてから5年間は後継者に代表権がなければいけません。
何らかの理由で後継者から代表権を外してしまうと、一気に贈与税が課税されるため、先行きも慎重に検討する必要があります。
ただし、やむを得ない理由であれば、事業承継税制の適用を受けてから5年未満であっても贈与税の課税はありません。
「やむを得ない理由」とは、
- 精神保健および精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた場合(ただし、障害等級が1級の場合のみ適用)
- 身体障害者福祉法の規定により身体障害者手帳の交付を受けた場合(ただし、身体障害の程度が1級か2級の場合のみ適用)
- 介護保険法の規定による要介護認定を受けた場合(要介護5の場合のみ適用)
- ①~③に類すると理由と認められる場合
となっています。
いずれも狙ってできる要件ではないため、事業承継税制の適用を受けてから5年未満で後継者の代表権を外して税制優遇を受けるのは難しいでしょう。
ちなみに、5年以上経過した後に後継者の代表権が外れた場合は、引き続き贈与税の納税を猶予されます。
また、業績の悪化やその他の理由で、後継者や後継者と特別の関係がある者が自社株を第三者に売却して、総議決権の50%の議決権数を保持できなくなると、贈与税が課税されます。
事業承継税制の適用を受けてから5年以内の売却であれば、適用対象の自社株分すべての贈与税が課税されます。
事業承継税制の適用を受けてから5年以降の売却であれば、売却した株式の分だけ贈与税が課税されます。
先行きも見越して、株式を売却するようなことがないかどうかも見極める必要があります。
贈与税で事業承継税制の特例措置を受けられる先代経営者の条件
事業承継税制の贈与税の特例措置を受けられる先代経営者の条件は、
- 会社の代表権を有していたこと
- 贈与の直前で、贈与者(先代経営者)と贈与者と特別の関係がある者の総議決権数の50%超の議決権数を保有していて、かつ、後継者以外の贈与者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
- 贈与時に会社の代表権をもっていないこと
となっています。
事業承継税制の特例措置を受ける場合は、会社の代表権を後継者に渡しておく必要があります。
最終的には贈与税の納税が免除される
最終的には、条件に該当すると贈与税の納税が免除されます。
贈与税の納税が免除される条件は、
- 先代経営者(贈与者)が死亡した場合
- 後継者が死亡した場合
- 事業承継税制の特例措置の「やむを得ない理由」に該当して、後継者が会社の代表権を失った日の後に「免除対象贈与」を行った場合(免除対象贈与とは、事業承継税制の適用から5年以上経過後に会社の民事再生などがあった場合、再度株価の評価を行い、再評価前の株価との差額の贈与税が免除される)
- 事業承継税制の適用から5年以上経過後に会社の民事再生などがあった場合(再度株価の評価を行い、再評価前の株価との差額の贈与税が免除)
- 事業承継税制の適用から5年以上経過後に、会社の破産手続開始決定があった場合
- 事業承継税制の適用から5年以上経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が発生して、会社の譲渡や解散をした場合(譲渡や解散時の自社株の相続税評価額の50%を下限として贈与税額の再計算して、再計算した税額と直前配当などの金額との合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合は、その差額を免除)
となっています。
⑥「事業の継続が困難な一定の事由」とは、
- 過去3年間のうち2年以上赤字の場合
- 過去3年間のうち2年以上売上減の場合
- 売上6ヶ月分よりも有利子負債の方が大きい場合
- 類似業種の上場企業の株価が前年の株価を下回る場合
- 後継者の心身の故障などにより事業の継続が困難な場合(ただし、該当するのは譲渡と合併のみ)
となります。
①「先代経営者(贈与者)が死亡した場合」と②「後継者が死亡した場合」は100%起こりますので、事業承継税制の特例措置の条件を維持さえすれば贈与税は完全に免除されるということです。
自社株贈与の贈与税を払わなくてよいということです。
上記の①~⑥に該当した場合は「免除届出書」と「免除申請書」を提出することで、贈与税の納税が免除されます。
一番注意しなければいけないのは、事業承継税制の適用から5年以内に条件から外れてしまうことです。
特に、株式の譲渡などで、議決権割合が減ってしまうことで条件から外れてしまうのは注意ですね。
納税猶予されていた贈与税と利子税がかかります。
相続税で事業承継税制の特例措置を受ける条件
相続税で事業承継税制の特例措置を受ける条件をご紹介します。
下記にあげる条件を満たさないと、一気に相続税と利子税がかかるため、しっかりと内容を抑えておきましょう。
相続税で事業承継税制の適用を受ける流れ
相続で事業承継税制の適用を受けるためには、会社の後継者や承継するときまでの経営の見通しなどを記載した「特例承継計画」を作成し、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所など)の所見を記載して、平成35年3月31日までに都道府県知事に提出して、円滑化法の認定を受ける必要があります。
ちなみに、平成35年3月31日までの相続については、相続後に特例承継計画を提出することもできます。
相続税の申告期限までに、事業承継税制の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書と必要書類を税務署に提出します。
相続税で事業承継税制の特例措置を受けられる後継者の条件
事業承継税制の相続税の特例措置を受けられる後継者の条件をご紹介します。
- 相続開始の日の翌日から5ヶ月を経過する日において、会社の代表権を持っていること
- 相続開始のときに、後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することになること
- 後継者1人の場合、相続開始のときに後継者がもっている議決権数が、後継者と特別の関係がある者の中で、もっとも多くの議決権数を保有することになること
- 後継者が複数の場合、後継者が総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することになること
- 後継者が相続開始の直前で、会社の役員であること。ただし、被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く
となっています。
相続税の事業承継税制の適用を受ける場合、相続発生後にあわてて後継者に代表権を渡しても間に合いません。
「相続開始の日の翌日から5ヶ月を経過する日において、会社の代表権を持っていること」となっていますが、相続が発生した翌日にあわてて後継者を決めて代表権を渡すのは非現実的だからです。
また、事業承継税制の適用を受けてから5年間は後継者に代表権がなければいけません。
何らかの理由で後継者から代表権を外してしまうと、一気に相続税と利子税が課税されます。
ただし、やむを得ない理由であれば、事業承継税制の適用を受けてから5年未満であっても相続税の課税はありません。
※「やむを得ない理由」は贈与税の条件と同様。
ちなみに、5年以上経過した後に後継者の代表権が外れた場合は、引き続き相続税の納税を猶予されます。
もちろんですが、「相続開始のときに、後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することになること」とあるため、相続発生後に事業承継税制の適用をあわてて受けるために準備するのでは間に合いません。
相続発生前から準備をしておくことが基本です。
また、業績の悪化やその他の理由で、後継者や後継者と特別の関係がある者が自社株を第三者に売却して、総議決権の50%の議決権数を保持できなくなると、自社株分の相続税が課税されます。
事業承継税制の適用を受けてから5年以内の売却であれば、適用対象の自社株分すべての相続税が課税されます。
事業承継税制の適用を受けてから5年以降の売却であれば、売却した株式の分だけ相続税が課税されます。
相続税で事業承継税制の特例措置を受けられる先代経営者の条件
事業承継税制の相続税の特例措置を受けられる先代経営者の条件は、
- 会社の代表権を有していたこと
- 相続開始の直前で、被相続人(先代経営者)と被相続人と特別の関係がある者の総議決権数の50%超の議決権数を保有していて、かつ、後継者以外の被相続人と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
となっています。
「相続開始の直前で、被相続人(先代経営者)と被相続人と特別の関係がある者の総議決権数の50%超の議決権数を保有していて、かつ、後継者以外の被相続人と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと」とあるため、自社株を後継者に生前贈与しすぎてしまうと特例措置を受けられなくなります。
事業承継税制の特例措置は複雑なため、計画的に行いましょう。
最終的には相続税の納税が免除される
最終的には、条件に該当すると相続税の納税が免除されます。
相続税の納税が免除される条件は、
- 後継者が死亡した場合
- 事業承継税制の特例措置の「やむを得ない理由」に該当して、後継者が会社の代表権を失った日の後に「免除対象贈与」を行った場合(免除対象贈与とは、事業承継税制の適用から5年以上経過後に会社の民事再生などがあった場合、再度株価の評価を行い、再評価前の株価との差額の相続税が免除される)
- 事業承継税制の適用から5年以上経過後に会社の民事再生などがあった場合(再度株価の評価を行い、再評価前の株価との差額の相続税が免除)
- 事業承継税制の適用から5年以上経過後に、会社の破産手続開始決定があった場合
- 事業承継税制の適用から5年以上経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が発生して、会社の譲渡や解散をした場合(譲渡や解散時の自社株の相続税評価額の50%を下限として相続税額の再計算して、再計算した税額と直前配当などの金額との合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合は、その差額を免除)
となっています。
⑤「事業の継続が困難な一定の事由」とは、贈与税の条件と同様です。
①「後継者が死亡した場合」は100%起こりますので、事業承継税制の特例措置の条件を維持さえすれば相続税は完全に免除されるということです。
自社株相続の相続税を払わなくてよいということです。
上記の①~⑤に該当した場合は「免除届出書」と「免除申請書」を提出することで、相続税の納税が免除されます。
一番注意しなければいけないのは、事業承継税制の適用から5年以内に条件から外れてしまうことです。
特に、株式の譲渡などで、議決権割合が減ってしまうことで条件から外れてしまうのは注意ですね。
納税猶予されていた相続税と利子税がかかります。
事業承継税制の注意点
有効に見える事業承継税制ですが、注意点があります。
必ず注意点を知った上で検討してください。
後継者以外の相続人の遺留分に配慮する
自社株の評価額はどうしても大きくなりがちです。
後継者ではない相続人(相続財産をもらう家族)への配慮をしておくことが重要です。
例えば、先代経営者の家族が、
- 妻(後継者ではない)
- 長男(後継者)
- 次男(後継者ではない)
の場合、法定相続分(民法で定められた相続配分)は、
- 妻:相続財産の50%
- 長男:相続財産の25%
- 次男:相続財産の25%
となります。
例えば、先代経営者の相続財産の内訳が、
- 自社株:3億円
- 自宅と土地:4000万円
- 預貯金:6000万円
で、合計の相続財産が4億円だったとしましょう。
相続財産4億円での法定相続分は、
- 妻:2億円
- 長男:1億円
- 次男:1億円
となります。
ですが、後継者である長男に自社株3億円をすべて相続させて、その他の財産配分を、
- 妻:自宅と土地4000万円、預貯金4000万円
- 長男:自社株3億円
- 次男:預貯金2000万円
としたとしましょう。
明らかに不公平ですよね?
特に次男の取り分の少なさは際立ちますね。
次男は「兄ちゃんは俺の10倍以上ももらうのか!ずるい!」となって、相続争いに発展するケースが本当に多いです。
相続人(相続を受ける人)は、法定相続分の半分の金額までをもらう権利「遺留分」を持っています。
※民法で定められています。
本来の次男の法定相続分は1億円ですので、遺留分は5000万円です。
しかし、次男が相続したのは預貯金2000万円ですから、あと3000万円を次男はもらう権利があります。
遺留分は主張されなければ支払う必要はありませんが、主張されたらお金を渡さなければいけません。
自社株がからむ相続では、どうしても後継者に多くの相続財産が集中しやすいため、後継者でない家族への遺留分の対策が必要です。
「うちの家族は仲が良いから」といっても、数千万円単位で不公平が起きると問題になるケースが多いです。
遺留分の金額を生命保険で用意することもできます。
例えば、次男の遺留分対策として3000万円の生命保険をかけるなら、
- 契約者:先代経営者
- 被保険者:先代経営者
- 死亡保険金受取人:長男(後継者)
と契約しておきます。
死亡保険金受取人は次男にした方が良いようにも思いますが、絶対に次男を死亡保険金受取人にしてはいけません。
遺留分は主張されたら払う、主張されなかったら払わなくてよいものですから、もし次男が遺留分を主張しなかったら長男がもらっておきましょう。
主張されたら死亡保険金から遺留分を次男に支払います。
死亡保険金は相続財産には該当しません。
死亡保険金受取人を次男にしてしまうと、次男は相続財産とは関係ない死亡保険金を受取り、なおかつ遺留分を請求できてしまうのです。
まったく無意味な対策になってしまうので、契約の仕方にはご注意を。
法定相続人以外を後継者にする場合も遺留分に配慮する
平成30年4月からの新しい事業承継税制では、後継者が法定相続人(先代経営者の家族)以外に自社株を渡しても税制優遇を受けられるようになりました。
家族内に後継者に適した人材がいない場合などに非常に有効ではありますが、家族の遺留分の対策をしておきましょう。
上記の通り、法定相続人には法定相続分の50%の遺留分の権利があります。
遺留分を主張されたら、後継者はお金を払わなければいけません。
家族が遺留分を主張してきた場合に、後継者がその支払いに困窮しないように、遺留分資金対策もしておきましょう。
自社株の分散に注意
平成30年4月からの新しい事業承継税制では、後継者3人までが税制の優遇を受けられるようになりました。
不用意に株式が分散することで、肝心の経営に支障がでないようにしましょう。
事業承継税制を活用するメリットがある企業は?
さて、この少々難解な事業承継税制ですが、要はどういう企業にメリットがあるのかを考えてみました。
事業承継税制を活用するメリットのある企業は、
- 自社株の評価額が1億円以上の中小企業
- 最低でも向こう5年、業績が伸びていくことが予測される中小企業
です。
事業承継税制はややこしい制度ですが、条件を維持できれば最終的に贈与税や相続税の納税が免除される制度ですから、本来納税する贈与税額や相続税額が大きい企業がもっともトクをします。
すごく簡単にいうと「儲かっている企業」がトクをする制度です。
自社株の評価額が1億円以上で、業績が伸びていく中小企業は、事業承継税制の特例措置を検討しましょう。
事業承継税制を活用するメリットがない企業は?
事業承継税制を活用するメリットがない・少ない企業は、
- 自社株評価額が1億円以下の中小企業
- 今後、業績が低下していくことが予測される企業
です。
自社株評価が1億円以下であれば、事業承継税制のような条件ありの贈与税・相続税対策でなくても、一般的な税金対策で対応できる可能性があります。
例えば「相続税の基礎控除」です。
相続税の基礎控除とは、相続税の計算をする際に無条件で非課税になる部分のことです。
基礎控除の計算方法は「3000万円+600万円×法定相続人数」です。
例えば、法定相続人(残される家族)が、妻と子供3人の合計4人だとすると、
3000万円+600万円×4人=5400万円は非課税です。
例えば、相続財産が1億円であれば、5400万円は非課税ですから、残り4600万円が相続税の対象です。
ちなみに、基礎控除の金額を大きくするには法定相続人の人数を増やせば良いのです。
慎重に検討する必要がありますが、養子縁組を行うなどして法定相続人を増やす人もいます。
自社株310万円贈与も有効
後継者に毎年310万円ずつ自社株を生前贈与していく方法も有効です。
贈与税の非課税枠は1年110万円です。
毎年310万円ずつ自社株を後継者に生前贈与していった場合の贈与税計算は、
310万円-110万円(非課税枠)=200万円が贈与税の課税対象です。
贈与税は200万円までであれば税率は10%ですので、1年間の贈与税額は200万円×10%=20万円です。
20万円の贈与税額に対して、実際に生前贈与した自社株は310万円分ですから、実質の税率は20万円÷310万円=6.45%です。
相続税の最低税率は10%ですから、310万円贈与の方が税率を低く後継者に自社株を渡すことができます。
310万円分の自社株を後継者に10年間生前贈与すれば、3100万円分の自社株を後継者に渡すことができます。
※税額は200万円です。
上記の通り、相続財産が1億円であれば、1億円-5400万円(相続税の基礎控除)-3100万円(生前贈与した自社株)=1500万円まで相続財産を減らすことができます。
今後、業績が低下していく企業であれば自社株の評価額も下がっていきますので、贈与税や相続税も下がることになります。
事業承継税制を使わなくても、一般的な方法で後継者に自社株を渡せる可能性があります。
事業承継税制以外の事業承継対策
事業承継税制以外にも事業承継対策を行う方法はあります。
儲かっている企業は事業承継税制の特例措置と併せて、それ以外の有効な事業承継対策を講じておくと、さらに効果的です。
退職金を積んでおく
自社株の評価額を下げる方法として、退職金を積んでおくのが有効です。
退職金を役員に支払うことで、資産が取り崩されることと、退職金支払いは経費扱いのため、大きく自社株の評価額を下げることができます。
ただし、退職金を貯めていくのはすぐにはできませんので、あらかじめ計画的に退職金の積み立てをしておくことが必要です。
退職金を積んでおくことで、会社の業績が悪化したときに貯金を取り崩す感覚で資金難を乗り越えることもできます。
退職金は保険で積み立てるのが一般的です。
保険の種類によっては、保険料の半分を経費に計上できるものもあるため、経費を作りながら退職金を貯めることができます。
相続税納税分の生命保険をかけておく
自社株を後継者が相続する際に相続税を払えないと自社株を相続できず、会社を継続することができません。
ですが、生命保険は「人が亡くなったときに現金化できる財産」です。
極論ですが、相続税の納税資金は納税するときだけ必要なお金ですから、生命保険が向いています。
例えば、
- 契約者:法人
- 被保険者:先代経営者
- 死亡保険金受取人:法人
という内容で保険に契約しておきます。
先代経営者が亡くなった場合は法人に死亡保険金が入ります。
死亡保険金は益金になりますが、死亡退職金として遺族に支払えば経費で相殺できます。※適性金額内であれば。
遺族は死亡退職金を納税資金に充てます。
生命保険の契約方法の注意点ですが、間違っても、
- 契約者:先代経営者
- 被保険者:先代経営者
- 死亡保険金受取人:後継者
と契約しないことです。
一見正しい契約に見えますが、自社株の相続税対策が必要な先代経営者となれば、役員報酬は高くもらっている人が多いですよね。
個人契約で保険料を払うということは、個人課税(所得税と住民税)が引かれた後に残ったお金で保険料を払うということです。
個人課税が最高税率になっていれば、所得税45%と住民税10%で55%課税です。
実質、保険料を払うのに、保険料の約2倍のお金が必要ということです。
契約者を法人にするメリットは、法人の税金の仕組みは「経費を引いてから残ったお金に法人税がかかる」という仕組みのため、「税金を払う前に保険料を払うことができる」のが大きなメリットです。
ですので、法人で保険料を払えば、個人で保険料を払うのに必要なお金の半分で済みます。
※上記「後継者以外の相続人の遺留分に配慮する」の保険契約方法の場合は、次男の遺留分対策で長男を死亡保険金受取人にする必要があるため、個人加入が良いです。
原則は先代経営者が保険に加入できる健康状態であることが必要ですが、最近では保険に入れる健康状態でなくても払った保険料より大きい保険金額が出る保険も登場しています。
まとめ
事業承継税制の特例措置はメリットもたくさんありますが、条件を維持できないと贈与税・相続税・利子税が一括でかかってしまうデメリットもあります。
儲かっている中小企業ほどメリットが大きくなりますので、検討してみましょう。
自社株評価額が小さい中小企業や今後業績が下がっていく中小企業は、事業承継税制よりも自社株の生前贈与や退職金の取り崩し・生命保険の活用などの事業承継対策を検討すると良いでしょう。
また、事業承継税制はあくまでも一手段にすぎませんので、
- 事業承継税制の特例措置
- 自社株の生前贈与
- 退職金による自社株の評価額の調整
- 生命保険による納税資金対策や遺留分対策
などを上手に組み合わせて事業承継対策をするのが一番効果的です。
ただし、こうした複合的な事業承継対策をできる専門家は少ないです。
税理士は法人会計に強い人は多いですが、相続や事業承継には弱い税理士が多いです。
※先生業ですから、できなくても「できます」と言いますけどね(^^;
特に、事業承継税制の特例措置についてわかっている税理士はほとんどいません。
顧問税理士が事業承継税制の特例措置や事業承継対策・相続税対策に詳しくないことがほとんどですので、事業承継は事業承継の専門家に相談すると良いでしょう。
もし「周りに事業承継の専門家がいない」という経営者の方は、当相談センターに問い合わせいただいてもかまいません。
当相談センターの相談料は無料です。
また、必要があれば事業承継の専門家も無料で紹介しています。
「こんな初歩的なこと聞いていいのかな…?」
「いまさら聞けない基礎的なことをこっそり聞きたい」
という相談も多いです(^^)
公平中立な第三者の立場で、事業承継や相続の相談に無料でのっていますので、気軽にお問い合わせください。
あなたの事業承継のお役に立てれば嬉しいです(^^)